最高裁判所第二小法廷 昭和38年(オ)1099号 判決 1966年1月21日
上告人
小林富雄
右訴訟代理人
諏訪栄次郎
被上告人
横浜信用金庫
右代表者代表理事
安藤清
右訴訟代理人
杉原尚五
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人諏訪栄次郎の上告理由第一点ないし第四点について。
論旨は、原判決別紙目録(二)記載の建物についてなされた本件抵当権設定行為は、原判示本件土地についてなされた所有権移転の本登記に抵触する中間処分とはいえず、しかも、法定地上権の成立は当事者間の特約を以てしてもこれを排除し得ない筈であるのに、本件において、上告人が原判示仮換地につき法定地上権を以て被上告人に対抗し得ないと判断した原審には、民法三八八条の解釈適用を誤り、仮登記の効力を誤解した違法があるという。
原判決の認定したところによれば、被上告人は昭和三一年五月二四日訴外野村幸三郎所有にかかる原判示本件土地につき代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を経、昭和三四年二月一一日右予約完結の意思表示をして本件土地の所有権を取得し、同年同月二七日右仮登記に基づく所有権移転の本登記手続を了したが、その間昭和三一年九月一日本件土地について原判示の仮換地指定がなされたので、被上告人は右所有権取得後は仮換地について所有権と同一内容の使用収益をなしうるにいたつたものであり、一方、訴外野村は、右仮換地上に原判決別紙目録(二)記載の建物をも所有していたが、昭和三三年二月一〇日上告人に対して右建物につき原判示根抵当権を設定して同年同月一三日その旨の登記を了し、その後上告人によつて右抵当権が実行され、昭和三四年七月二三日競売開始決定を得て、上告人みずから右建物を競落し、昭和三六年一月二五日右建物の所有権取得登記を経たうえ、爾後上告人において右建物を所有してその敷地である前記仮換地(ただし原判決別紙目録(三)記載の建物の敷地部分三坪を除く。)を占有しているというのである。
よつて、右認定事実に基づいて、上告人のため前記仮換地について決定地上権が成立するかどうか案ずるに、民法三八八条の規定により法定地上権が成立するためには、建物またはその敷地について抵当権が設定された当時に右建物およびその敷地が同一所有者に属すれば足りるのであつて、その後において右建物およびその敷地が所有者を異にするにいたつても法定地上権の成立を妨げないのであり、本件についてこれをみるに、前記建物について原判示抵当権が設定された当時は、右建物は本件土地とともに訴外野村の所有に属していたというのであるから、その後本件土地を被上告人が取得するにいたつても、右根抵当権の実行によつて右建物を競落した上告人のため法定地上権が成立することが明らかである。しかしながら、被上告人は右根抵当権設定登記前にすでに本件土地について代物弁済予約を原因とする所有者移転請求権保全の仮登記を経ていたというのであるから、その本登記手続がなされることにより、右仮登記後本登記までの間になされた右本登記に牴触する処分によつて権利を取得した者は、右権利を以て被上告人に対抗し得ないことになるのである。そして、訴外野村は、本件土地についてみずから地上権または賃借権を設定したものではないけれども、本件仮換地上の前記建物に抵当権を設定し、これによつて建物競落人たる上告人のため本件仮換地について法定地上権が成立するにいたることは、まさに所有権移転の本登記と牴触する結果を生ぜしめるものであることが明らかであり、本件土地について訴外野村の処分によりかかる権利を生ぜしめたとなんら区別すべき理由はないものといわなければならない。従つて、上告人は右法定地上権を以て被上告人に対抗し得ないものというべく、これと同趣旨に出た原審の判断は相当である。その他論旨は、るる述べるけれども、原判決を正解せず、右に反する独自の見解に立つて、原判決の正当になした判断を非難するにすぎず、原判決に所論の違法あるを認め得ない。従つて、論旨はすべて採用できない。
第五点について。
本件土地について被上告人のため所論各根抵当権設定登記がなされていたことは、原審の認定しないところであるのみならず、原判決によれば、原審は上告人のため法定地上権の成立することを否定したものではないことが明らかである。論旨は、原審の認定しない事実を前提として、原判決を非難するにすぎない。なお、論旨引用の判例は、本件と場合を異にして、本件に適切ではない。従つて、論旨は採用できない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)